研究から探す

コンピューターを使って触媒を開発する。

※この記事は2019年10月に神戸新聞に掲載されたものです。

皆さんはパリ協定というものをご存知でしょうか?京都議定書の方が、なじみ深い方も多いかもしれません。

京都議定書の後継として2015年に定められ、地球温暖化を防ぐために二酸化炭素の排出量削減などを国際的に取り決めています。日本も30年までに、13年の二酸化炭素排出量の26%を削減することを宣言しました。

目標を達成するには、太陽光などの再生可能エネルギーの利用拡大と、燃料電池など、より効率よくエネルギーを使う(変換する)技術の発展との両方が求められます。

エネルギーや化学物質を変換する技術で、欠かせないのが触媒です。例えば燃料電池の中には、電極として白金などの触媒が使われています。水素と酸素を水に変換することで、電気エネルギーを取り出す役割を担っているのです。

変換効率を向上させるには、より良い触媒材料の開発が必要です。そのためには、触媒の表面上でどのような反応が起きているのか(反応機構)を知る必要があります。

有名な研究では、ドイツのゲルハルト・エルトゥル博士が鉄を触媒として、水素と窒素からアンモニアができる反応機構を原子レベルで解明しました。同博士は07年にノーベル化学賞を受賞しています。

触媒表面では、目には見えないさまざまな分子が存在します。分子の結合が切れたりくっついたりしながら、新たな分子を形成しているのです。

それらの反応は非常に速く複雑で、実験で全てを観測するのはまだまだ困難です。一方、近年ではミクロな物質の性質を予測する量子化学と呼ばれる理論を用い、コンピューター上で解析する技術が驚くほど発展しました。

私の研究室では、コンピューターを用いて、燃料電池や水素製造触媒における反応機構を解析しています。また解析だけでなく、反応機構そのものをプログラムによって自動的に作成し、どんな原料・触媒に対しても触媒性能を予測できるような技術の開発に日々取り組んでいます。

触媒を例にあげましたが、パリ協定の目標を達成するには、他にもエネルギーに関わるさまざまな物質を新たに生み出す必要があります。関西学院大学は21年に理工学部を再編し、工学部物質工学課程を新たに設置します。地球の未来を守る上で欠かせない物質を創成するため、研究を加速させる予定です。

小倉 鉄平</span> 教授

OGURA Teppei

コンピュータを用いて分子レベルの観点から実際の現象に対する計算解析を行っている。