研究から探す

複雑な現象を読み解く、数理モデルの解析。

※この記事は2023年6月に神戸新聞に掲載されたものです。

■感染症広がりなど解析

 世の中の複雑な現象を読み解くすべとして「現象の数理」が活躍しています。現象のいろいろな要素を数式で表し、その一連の現象をまとめ上げた数式を数理モデルと呼び、作成した数理モデルの解析を行います。すると、現象の性質をより深く知ることができ、またある操作を行ったときにどのようなことが起こるかを予測できるようになります。

機械学習の画像変換手法を活用した数理モデル

 有名な例として、新型コロナウイルスやインフルエンザといった感染症の広がりの数理モデル解析があります。患者数の変化を数理モデルにすることで、感染症がどのように流行し始めるのか、予防のためにはどんな介入の方法が有効であるのか、などの予測に役立てられ、政府もこの解析結果を用いて対策を打ち出しました。

 私たちの研究室の大学院生も、感染症の患者数動態予測に興味を持ち、研究を進めています。これまで十分に取り入れられてこなかった人の移動について、数理モデルの重要な要素になるだろうと考え、感染症の数理モデルにその効果を導入し、解析や現象解釈に取り組んでいます。

 私たちの研究室では、学生それぞれが興味を持つ分野で十分にそのメカニズムが解明されていない現象を研究テーマにし、数理モデルを用いてそのメカニズムに迫る研究を行っています。そして、自らの研究を自分の言葉で伝えられるようにコミュニケーションの鍛錬とともに日々研究活動を行っています。

 最近、研究室の多くの学生に取り組んでもらっている、数理モデルを用いた動物の疾患の進行度合いを判定する研究を紹介します。これまでの細胞観察法では、切り出した各解剖切片には一つの染色方法しか採用できず、その染色法から抽出できる生体の特徴のみしか抽出できませんでした。

 しかし、昨今急速に進展している機械学習の画像変換手法を用いると、ある染色像からあたかも別の染色方法で染色して得られた「変換」像を作り出してくれます。そして得られた変換像からも染色方法独自の特徴を抽出し、一つの観察像から多種の特徴を抽出することができるようになります。そのように抽出した各種の特徴を用いてより詳細な数理モデルを作ることで、より正確に疾患進行度合いを判定できるようになってきました。

 一見、数学と生物や医療は結びつきがないように見えますが、デジタル化やAI(人工知能)が進展するこれからの時代、より詳細な現状把握、そして将来予測のためには切っても切れない関係になることは間違いなく、不可欠な方法論となるでしょう。

昌子 浩登</span> 教授

SYOJI Hiroto

秩序や構造が自然にできあがる不思議な現象である自己組織化現象を対象として、様々な実験を行い、データ解析を行っています。肝臓のミクロパターンなどの生命現象や化学反応でできるパターンなど、その形成メカニズムを数理的に推定する研究を行っています。