研究から探す

無数に開く小さな孔に大きな可能性。

※この記事は2022年8月に神戸新聞へ掲載されたものです。

活性炭と呼ばれる炭は、においを取り除く消臭剤として利用されています。冷蔵庫や靴に入れて使う黒い消臭剤を目にしたことがある人もいるかもしれません。それが活性炭です。活性炭の中には、目に見えない非常に小さな孔(あな)がたくさん開いています。この孔の中に、においの原因となる分子を取り込んで、脱臭をしています。このように、無数の孔が開いている物質は、「多孔性物質」と呼ばれています。

 私たちの研究室では、「金属-有機構造体」と呼ばれる多孔性物質の研究をしています。英語の表記では「Metal-Organic Frameworks」となり、その頭文字をとってMOF(モフ)というニックネームがついています。MOFには分子と同じくらいのサイズの非常に小さな孔が無数に開いています。

多孔性物質の表面積

 この記事では、多孔性材料の表面に出ている面の面積(表面積)について考えてみようと思います。例えば、図に書かれているように、1辺1センチの立方体の表面積は0・0006平方メートルです。とても小さな値ですね。この立方体から薄い壁を4枚残して中身をくりぬくと、(壁の厚みを無視すれば)壁の表と裏の2面が表面に出ていることになるので、その表面積はおおよそ0・0008平方メートルになります。孔を一つ開けると少し表面積が増えました。

 次に、立方体のサイズは変えずに、4分の1のサイズとなる四つの孔を開けるとどうなるでしょうか? 同じように計算すると、0・0012平方メートルになります。孔の数が増えると表面積が増えていくことが分かってきました。

 この調子で、立方体のサイズを変えずに、どんどん孔を小さくして、その数を増やしていきます。最終的に、孔のサイズが分子のサイズと同じくらいになった物質がMOFです。分子のサイズは1ナノメートル(ナノは10億分の1)で、これは花粉やほこりの1万分の1程度の大きさしかありません。

 そのような小さな孔を無数に持つMOFの表面積は1グラムあたり最大で7千平方メートル程度になることが知られています。これは活性炭と比較すると格段に大きな数値で、たった1グラムのMOFの中にサッカーコート丸々1枚と同じくらいの面積が収まっている計算になります。

 MOFはその大きな表面積を利用して、いろいろな物質を大量にため込むことができるため、さまざまな分野での応用が期待されています。例えば、リチウムイオンを孔にたくさん取り込むことで、大容量電池を実現することができますし、孔に二酸化炭素を取り込めば温室効果ガスの排出を抑えることができます。

 私たちの研究室では、さまざまな新しいMOFの研究を通して、SDGs(持続可能な開発目標)に貢献するための新材料を開発しています。

田中 大輔</span> 教授

TANAKA Daisuke

有機物と無機物の両方の特性を併せ持つ金属錯体分子を用い 次世代エレクトロニクスへの応用や環境エネルギー問題の解決を目指した分子性ナノ材料の開発を目指しています。