研究から探す

ソーシャルネットワーク グラフ化で異常を検出。

※この記事は2023年10月に神戸新聞へ掲載されたものです。

 「情けは人のためならず」ということわざがあります。他人への親切は、巡り巡って自分に返ってくると言われています。しかし実際には、親切だけでなく、様々な行為が人と人との関わりによって拡散し、多くの人に影響を与えます。そして、自分に返ってくるのはその影響のほんの一部に過ぎません。

 SNS(交流サイト)などのソーシャルメディアの普及に伴い、ソーシャルメディア上での発言行為が社会に大きな影響を及ぼすようになりました。中でも、特定の個人を対象に批判が殺到するネット炎上やフェイクニュースの拡散は、人権侵害や世論形成の妨げとなり、さまざまな問題を引き起こしています。

 ソーシャルメディアは人々の暮らしに溶け込んでいて、日々の暮らしを良くしています。問題があるからといって、ソーシャルメディアの利用を全面的に禁止することはできません。そのため、ソーシャルメディアとうまく共存できる方法や仕組みを考えていく必要があります。

 私の研究分野はソーシャルネットワーク分析です。この分析を通じて、ソーシャルネットワーク上での影響の広がりがもたらす性質を明らかにしようとしています。最終的には、ソーシャルメディアが引き起こす問題を軽減できるような新たなSNS技術の開発を目標としています。

 現代の日本人が主に利用している情報伝達手段として、電話や電子メール、そしてLINE(ライン)などが挙げられます。そのため、日本全体のソーシャルネットワークを詳細に分析するためには、これらの通信履歴を全て収集し、通話やメッセージの内容を調べて、人々の関係性を解析することが理想的です。

 ただし、このような分析に協力してくれる心優しい人は非常に少ないでしょう。協力者を増やすためには最低限、個人を特定できる情報は秘匿し、内容も読めない状態で分析を行える準備が必要です。

 そのための準備として、私はグラフ理論に基づいたソーシャルネットワーク分析方法の開発を進めています。グラフ理論では分析対象を点と線の集まりであるグラフで表現し、このグラフを用いて分析対象の性質を調べます。この理論の考え方は18世紀に数学者オイラーによって初めて用いられ、現在ではさまざまな分野で応用されています。

ソーシャルネットワークをグラフで表現したもの

 図は、あるアメリカの大学関係者のSNS通信履歴から描出したソーシャルネットワークをグラフで表現したものです。一つの点は1人の利用者を示し、メッセージのやりとりがあった利用者間には線が引かれています。このようなグラフの情報のみでは、個人の特定は困難です。私の研究室では現在、このようなグラフの情報のみから、ソーシャルネットワーク上の異常(例・ネット炎上やいじめ)を早期に検出し、迅速に対処できる仕組みの構築に取り組んでいます。

作元 雄輔</span> 准教授

SAKUMOTO Yusuke

インターネットやソーシャルネットワークは大規模・複雑ネットワークの代表例です。私は,大規模・複雑ネットワークを数理的に解析することで,その普遍的特性を解明し,インターネットの安定運用技術の構築やソーシャルネットワークへの工学的応用を実現するための研究を行っています。