研究から探す

新物質の開発、エネルギー問題の解決へ。

※この記事は2022年11月に神戸新聞へ掲載されたものです。

「物質は世界を変えてきた」と私は切に思います。とりわけ、産業革命以降、その時々の社会命題に対して新しい物質が生み出され、人類はその恩恵を受けてきました。

 合成染料やナイロンに始まり、二次電池の電極材料や青色発光ダイオードの根幹をなす半導体材料など、例を挙げればきりがありません。このように物質には世界を変え得る大きな力があり、今ほどエネルギー分野におけるゲームチェンジング(新たな勝ちパターンを生み出す)な物質や技術、デバイスが求められている時代はありません。

 例えば、政府が掲げる持続可能な社会や脱炭素の実現「グリーントランスフォーメーション(GX)」に向けては、未踏の物質の探索や開発が重要であり、関西学院大学工学部物質工学課程ではそのような研究に日夜まい進しています。ここでは、私たちの研究グループで見いだした新しい研究成果を紹介します。

吉川教授の研究室が開発した二次電池の図(右上のQRコードは物質工学課程の詳細

 二次電池の代表格であるリチウムイオン電池は現代を生きる私たちにとってはなくてはならない代物ですが、昨今の世界情勢や資源・環境問題などから、高性能化だけではなく、コスト的にもお得な材料が求められています。リチウムの価格高騰によっては二次電池を買えない時代、例えば電気自動車が庶民には手が届かない時代が来るかもしれません。

 そうなれば、持続可能な社会や脱炭素もほごにされてしまいます。われわれは、このリチウムより資源豊富で、安価なナトリウムを用いるナトリウムイオン電池に適した新しい正極材料を、地道な物質探索から見つけ出しました。

 この材料自体は多孔性材料である金属有機構造体(MOF)ですが、「アゾ基」という特殊な有機物部位を含ませることで、ナトリウムイオン電池としてよく機能することが分かっています。これらを基軸に、ぜひ日本発の実用的ナトリウムイオン電池を実現したいと考えています。

 これは従来型の経験的勘に基づいた物質探索で得られた成果であるのに対して、最近は情報科学や数理科学を用いて機能を予測し、物質を開発する手法「マテリアルズインフォマティクス」も重要になっています。これは、物質科学におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)に当たります。

 われわれのグループでもそのような材料開発に取り組んでおり、例えば、上述のMOFがその多孔性からさまざまなガスを吸着することに着目し、脱炭素の重要ガスである二酸化炭素を効率的に吸着するMOFを数学・情報科学的手法で見いだそうとする研究を数学者と一緒に行っています。

 一見、物質と情報・数理科学は結びつきがないように見えますが、これからの時代においては切っても切り離せない関係になることは間違いなく、脱炭素などのエネルギー材料開発に必要不可欠な方法論となるでしょう(AI=人工知能=が高性能な物質を予測します!)。

 このように関学物質工学課程では全国でも珍しいエネルギー問題解決に特化し、SDGs(持続可能な開発目標)やカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)に貢献できるような物質に付加価値を与える研究に日夜励んでいます。

吉川 浩史</span> 教授

YOSHIKAWA Hirofumi

有機小分子や高分子から無機物質、有機無機複合材料、炭素材料にいたるまで様々な物質群を対象に、大容量や急速充電をキーワードに、新しい蓄電材料の開発研究を進めています。