研究から探す

電線温度の予測モデル構築。

※この記事は2023年5月に神戸新聞へ掲載されたものです。

 電気はさまざまなエネルギーの中でも、とても使いやすいエネルギーです。光や熱、力(動力)などから電気へ容易に変換でき、逆に電気からそれらのエネルギーを得ることも容易です。そのためさまざまなエネルギーの中心的な存在として、われわれの暮らしや産業を支えています。

 電気を発生させる仕組みとしては、太陽光発電、風力発電など再生可能エネルギーに変わってきています。ご存じの通り、太陽光発電は日射量、風力発電は風速により発電量が変化しますので、住宅や工場などの電力消費に合わせて、送配電線に流れる電流が変わります。

送電線を含む空間の温度分布立体図(断面図)
送電線を含む空間の温度分布立体図(断面図)

 このような電気の流れに今後、大きな影響を与える可能性があるのが、車両の電動化です。電気自動車(EV)は大容量バッテリーを搭載していて、自宅などで行う普通充電であれば10時間程度かかりますが、外出先での急速充電は30分程度でできます。今後はガソリンを入れるのと同じように5分程度で充電することができれば、さらに利便性が高まります。

 将来的には太陽光や風力発電といった環境に優しい電気を使って電気自動車を充電するため、短時間だけ通常より大きな電流を流すことのできる柔軟な電力ネットワークが必要になるかもしれません。

 本研究室では電気エネルギーに関する研究テーマの一つとして、送電線温度に基づく新しい電力ネットワークに関する研究を行っています。一般に送電線や地中ケーブルなどの電力設備は、電流が流れて温度が上昇すると劣化するため、最大許容温度を超えないように定格電流が定められています。これまでは変化の少ない一定の電流を流すことが前提であったため、定格電流をそのまま用いることが多かったのですが、短時間に大きく変動する電流を流すのであれば、電線温度に立ち返って考える必要があるかもしれません。

 その場合、電線周辺の風速や風向角、気温などによっても、電線温度は変わってくることになります。最新の情報処理技術を駆使し、サイバー空間上に送電線温度のシミュレーションモデルを構築し、様々な気象条件下において数時間先の電線温度を予測しながら、電気自動車への充電電流をマネジメントするような技術の開発を目指しています。

 研究室で学ぶ学生には、一つの学術的理論の基礎をしっかりと身に付けてもらうとともに、その理論だけではうまく説明できない現象や解決できない課題に直面したときには、一つ下の階層の知識に戻って考え直す(学び直す)ことができる研究者・技術者に育ってほしいと考えながら、日々教育研究に取り組んでいます。

杉原 英治</span> 教授

SUGIHARA Hideharu

電力ネットワークとそれを構成する要素(送電線、地中ケーブル、変圧器、パワーエレクトロニクス機器、蓄電池など)に着目し、システム工学的な立場から、各構成要素をどのようにモデル化し、どのようにコントロールすべきかについて、物理的な原理原則に基づいて考えていきます。