研究から探す

ソフトクリスタル 刺激に応答 発色さまざま。

※この記事は2023年7月に神戸新聞へ掲載されたものです。

 私たちの住むリアルな物質世界は、私たちの体も含めてさまざまな元素が組み合わさった化合物で成り立っています。金属イオンと有機分子や無機イオンが組み合わさった複合体は「金属錯体」と呼ばれ、私たちの体の中で酸素を運んだり、複雑な有機化合物をつくる触媒となったり、スマートフォンのディスプレーで発光する色素として働いたり、様々な機能物質として重要な存在です。

 また、金属錯体は多彩な色を呈するものが多く、昔から人々の興味を引き付けてきました。私も金属錯体のきれいな色に魅了された一人で、特に、環境変化や刺激に応答してさまざまな色に発色や発光する発光性クロミック金属錯体の開発を行ってきました。

白金錯体の分子構造と単結晶(上)、微結晶粉末(下)の発光写真(紫外線照射下)

 「クロミック」は、可逆的に色変化が起こる現象「クロミズム」を意味します。変化を起こす刺激としては、熱(温度変化)や光のほかに、環境中の水やアルコールなどの蒸気や、擦ったりひっかいたりといった機械的な刺激も重要です。このような刺激応答性の物質は、目に見えるセンサー材料として期待されます。

 図は、本研究室で最近開発した集積発光性の白金錯体の一例です。この錯体は、白金イオンに有機分子が結合(配位)した平面構造を持つ錯体です。この錯体の希薄溶液、つまり錯体がバラバラに存在する状態では、ほとんど発光しません。しかし、この白金錯体が規則正しく配列して結晶を形成すると、非常に強い発光を示します。

 面白いことに、白金錯体の配列のわずかな違いによって、発光色を赤から青まで自在に変化させることができます。このような発光を集積発光と呼んでいます。また、青色発光を示す錯体結晶は、環境中の水蒸気濃度に応答して黄緑色発光の結晶に変わります。これらの結晶は、弱い分子間の相互作用によって錯体分子が配列している状態なので、弱い刺激により集積構造がわずかに変化して大きな発光色変化を示す環境応答性の材料となります。

 この例のように、結晶の3次元秩序構造を保持したまま、弱い刺激に応答して柔軟に構造変化する物質群を「ソフトクリスタル」と呼びます。ソフトクリスタルは、金属錯体結晶のほかに有機分子結晶など弱い分子間相互作用で形成される結晶の総称ですが、高感度なセンサー材料や鋭敏な刺激応答性材料として期待されています。本研究室では、発光性金属錯体に注目して、環境に応答するソフトクリスタルの開発を目指し、きょうも研究を展開しています。

加藤 昌子</span> 教授

KATO Masako

金属錯体, 光機能, 構造化学, ソフトクリスタル, Coordination Compounds, Photofunctions, Soft Crystals, ソフトクリスタル, 光化学, 光機能, 構造化学, 金属錯体, 金属錯体化学 環境変化や刺激に応答して、発色・発光や、その他の物性が連動して変化するクロミック金属錯体の開発。特に、結晶の三次元秩序構造を保持したまま、弱い刺激に応答して柔軟に構造変化しうる「ソフトクリスタル」の学理と光機能導出に取り組んでいる。