研究から探す

プロテインロス 遺伝子を探し薬の種に。

※この記事は2023年12月に神戸新聞へ掲載されたものです。

 近年、まだ食べられる食品が廃棄されるフードロスが社会的な問題となっています。私たちの体の中でも、まだ使えるタンパク質が廃棄される「プロテインロス」が体の正常な働きを妨げ、さまざまな病気の原因となることがあります。

「プロテインロス」が起きる仕組み

 私たちの体を作る細胞には、多くのタンパク質が存在し、体の正常な働きを担っています。細胞の内外に存在するタンパク質は、20種類程度のアミノ酸が多数つながったひも(ポリペプチド)として作られます。このポリペプチドは細胞の中で自ら折りたたみ(フォールディング)、正しい形(立体構造)を作ることで、タンパク質はようやく働ける状態(天然状態)となります。

 生卵に熱を加えると固まるように、タンパク質は熱や物理刺激などのストレスによって形が壊れる(変性)と、その機能が失われます。また、タンパク質の設計図となる遺伝子に異常(遺伝子変異)があると、タンパク質を構成するアミノ酸配列(アミノ酸の種類や順番)に変化が生じ、タンパク質の形が変化することがあります。

 この形の悪い異常タンパク質は、多くの場合、細胞にとって有害であるため、タンパク質品質管理という仕組みにより、廃棄される目印(ユビキチンというラベル)が付けられます。その結果、細胞の中で働けるタンパク質であったとしても、形が悪い異常タンパク質は廃棄(分解)されて「プロテインロス」となり、病気の原因となることがあります。

 私たちの研究室では、嚢胞性線維症(のうほうせいせんいしょう)という欧米人に多い遺伝病の研究を行っています。嚢胞性線維症では、遺伝子の異常により形が悪い「CFTR」というタンパク質が作られます。この形の悪いCFTRタンパク質は細胞の中でまだ働くことができるのですが、過度に敏感なタンパク質品質管理という仕組みにより、ユビキチンという目印を付けられ、廃棄されてしまいます。

 CFTRは肺の感染症の予防にとても重要なタンパク質で、CFTRプロテインロスは重い肺の感染症を起こす嚢胞性線維症の原因となります。残念ながら、嚢胞性線維症の多くは50歳までに死に至り、その治療法は限られています。私たちは、ヒトの培養細胞を実験材料とした遺伝子操作実験で、CFTRプロテインロスを決める酵素などの責任遺伝子を探しています。

 現在、CFTRプロテインロスを決めるユビキチンを付ける酵素を見つけることに成功し、企業や外部研究所と協力して、この酵素の働きを妨げる化合物を探す研究を行っています。近い将来、この宝探しが嚢胞性線維症を治療する“薬の種”の発見につながることを期待して、多くの学生と日々研究を楽しんでおります。

沖米田 司</span> 教授

OKIYONEDA Tsukasa

CFTR の品質管理 メカニズム,特に,フォールティングと分解シグナルであるユビキチン化機構を明らかにする事で,嚢胞性線維症の治療法開発に貢献する事を目指します。