※この記事は2019年8月に神戸新聞に掲載されたものです。
大昔から、天体観測というのは可視光で行うものでした。
ところが1931、32年ごろ、米国のベル電話研究所で、短波通信の妨害となる雑音を研究していた若き技術者カール・ジャンスキーが、原因の分からない雑音に頭を悩ませていました。いろいろ調べた結果、その雑音電波は太陽系よりはるか遠方にある宇宙から来ていることが分かりました。
今は宇宙電波と呼ばれていますが、当時は宇宙のどこから、なぜ電波が出ているのか分かりませんでした。その正体を調べるため、新しいアンテナを作って研究を続けたいと会社に願い出ましたが、拒否された上に別の部署に移され、研究はできなくなりました。彼は50年、45歳の若さで亡くなってしまいます。
一方、第2次世界大戦中にレーダーの開発をしていた電気技術者たちが、戦後にジャンスキーの発見した宇宙電波の研究に取り組みました。そして60年代以降、光では見えない全く新しい天体や天文現象をたくさん発見しました。
例えばメシエ84と呼ばれる楕円銀河の光(写真右)は、1兆個もの星の集団として銀河が見えています。しかし電波では星は全く見えず(写真左)、代わりに銀河の中心から上下にジェットが噴出しているのが見えます。

これは銀河の中心核から光速に近い速さで吹き飛ばされた電子が、上下に伸びる磁力線にからみつき、らせん運動をしています。その電子から電波を放射されているもので、光では全く見えません。ブラックホールの周囲が初めて写し出された先日の写真も、電波で撮像されたものです。
ジャンスキーの発見した宇宙電波は天文学に革命を起こし、宇宙が可視光で見るよりも豊かであることをわれわれに教えてくれました。ノーベル賞もたくさん出ました。
ジャンスキー本人はそのようなことを知ることなく、不遇なうちに若くして亡くなりました。しかし、世界の天文学界はその偉大な功績をたたえ、宇宙から来る電波の強さを表す単位に「ジャンスキー」という名称を使うことにしました。
この話は研究を行う者には示唆が多く、毎年、学生に聞かせています。