研究から探す

脂質分子が作る多様な構造や性質を研究。

「脂質」というと何を思い浮かべるでしょうか。思わずおなかの脂肪に目がいった人がいるかもしれません。毎日使うせっけんや化粧品の成分、また血液検査で気になるコレステロールを思い浮かべた人もいるかもしれません。「生物」の授業で、細胞を取り囲む脂質二重層膜について習った人もいるでしょう。

これらは皆「脂質」の仲間です。体の中で、水に溶けないで有機溶媒に溶ける分子をまとめて「脂質」と呼んでいるのでさまざまな分子が含まれますが、これらが作る多様な構造は、生体内で重要な役割を担っています。

研究室ではこうした脂質分子が作る多様な構造やその性質を調べていますが、ここでは人の皮膚角層の中にある脂質層の構造について紹介しましょう。角層は体全体を覆っている膜で、厚さはコピー用紙の5分の1ぐらいしかない非常に薄い膜です。この角層が私たちの体から水が抜けて干からびてしまうのを防いでいます。

角層は、死んで10層ぐらい積み重なった円盤状の角質細胞とその周りを埋めている脂質層からできています。この脂質層に含まれる脂質の種類も層状構造も他には見られない独特なものです。この脂質層の構造が角層のバリアー機能にとって重要だと考えられていますが、非常に薄い膜であるため研究が難しく、構造とバリアー性能の詳細な関係はまだよく分かっていません。

角層の脂質層には脂質分子が規則正しく並んだ領域があることが知られており、これらの領域の分布がバリアー機能とどう関係しているか調べるために、電子線やスプリング8の放射光エックス線を利用して実験をしています。

研究に使う電子顕微鏡
電子顕微鏡を使い1個の角質細胞に電子線を当て、得られた電子線回折像。リング状のピーク(矢印部分)を解析すると細胞上の脂質層内の脂質分子の並び方が分かる

電子線を使うと皮膚表面からはがした1個の角質細胞で構造を調べることができますので、体のいろいろな部位から試料採取して構造の部位差などを調べることができます。また、この規則的な分子の並び方は、40度付近で変化することが知られています。毎日熱めのお風呂に入るとこの構造変化が皆さんの皮膚でも起こっています。放射光エックス線を使うと、温度を変えながらこの構造変化を追跡することができます。

こうした研究で脂質層がどんな構造や性質をもっているとバリアー性能がよくなるのか明らかにできると、肌荒れの改善方法の開発などにつながっていくと期待しています。

加藤 知</span> 教授

KATO Satoru

リン脂質二重層膜の基礎的構造・物性を顕微鏡観察、熱測定、X線構造解析などの手法により研究。