研究から探す

数理モデルを使って自然・生命現象を解析する。

※この記事は2021年5月に神戸新聞に掲載されたものです。

新型コロナウイルス感染症の影響で私たちの生活は一変しました。兵庫県・阪神地域においても変異ウイルスによる感染が再拡大しており、いまだ予断を許さない状況です。感染拡大予測の観点から数理モデル解析が脚光を浴びましたが、日本政府の政策決定に感染症の数理モデルがここまで利用されたのは今回が初めてのことです。

専門家会議の先生方には顔見知りの先生もおられるのですが、厳しい批判にもめげず研究と発信を続けられており本当に頭の下がる思いです。私自身は感染症モデルの専門家ではありませんが、ミツバチの営巣など自然現象の数理モデル解析を行っていまして、感染症モデルの中でも最も単純なSIRモデルであれば皆さんに説明できそうです。

今日はSIRモデルの一つの式を何とかカンタンに説明し、少しでも社会貢献させてもらえたらと思います。

SIRモデルには、ある地域における三つの人口、未感染(susceptible=感受性)人口、感染(infected)人口、治癒(recovered)人口が登場します。SIRモデルはこの3つの人口の増加スピードの式から成りますが、ここでは感染人口の式のみ見てみます。

式の下部分について、第1項は「感染者へと転じる未感染者数(単位時間あたり)」を表し、そこから「治癒して感染人口から除外される数(単位時間あたり)」を引く(第2項)という構造をしています。

意外に簡単ではないですか? 感染力は感染人口に比例するという単純な仮定がこのモデルの肝です。

左辺の増加スピードは本来は高校で習う「微分」を用いて表します。さらに頑張って大学で習う微分積分を使ってやると「基本再生産数」と呼ばれる値R0(アールゼロ、アールノート)を求めることができます。基本再生産数R0は、感染対策なくそのまま放置すると1人の感染者がR0人の2次感染者を生む状況にあることを示します。

つまりR0が1より大きいか小さいかで感染が拡大するかしないかが決まるわけです。

ちなみにニュースでは「実効再生産数Rt」の方をよく聞くと思います。これは「実際に一人の感染者が生み出した2次感染者数の平均」と広い意味で統計学的に定義された数になります。新型コロナウイルスの流行解析において、SIRモデルそのものは使われないようですが、そのモデル構成におけるキホンのキとして大いに活用されています。

大﨑 浩一</span> 教授

OSAKI Koichi

自然界における普遍的な構造を数理モデルを用いて抽出し、解析手法を開発している。